本サイト「クリスタルクリア」のブログ。
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そいつは、嗚咽が止まらない俺に全身でしがみついてぎゅうぎゅう締め付けながら、泣かないで、と言った。
「ぼくがいるから」
「ぼくはいなくならないから」
「だいじょうぶ」
もうひとりになんかしないから。
今思えばよくわからないその言葉だけがあの数日のなかで唯一鮮明な、そして温度を持っているもので。
残念ながら、どんな顔して言われたのかとか、細かい状況等は全く覚えていないけれど。
そしてその言葉どおり、以来そいつはずっと俺のそばにいる。
□■□■□ ■
ふつりと意識が浮上し、耳に届いたのは電車の音と鳥の声。ワンテンポ遅れて、今が朝で、自分が目覚めたことを把握する。
ベッドの上、自分の傍らに無造作に転がっている携帯の画面に触れると、設定したアラームが鳴るまであと4分と微妙な時間であることがわかり、ぼすんと枕に突っ伏した。
いつもはアラームが鳴っても気づかず寝ているほどの自分が自然に目覚めるのは本当に珍しい。
土台、昨日はなかなか寝付けなかったのだ。至極、個人的な事情により。
「いるかさーん、おきたー?」
慣れた声と一緒に、とたとたと廊下を歩く音。一度ぎゅっと目を瞑ってから、入鹿はタオルケットに包まったまま叫んだ。
「まーーーだーーーー」
「それ明らかに起きてるよね!」
突っ込みに次いで、部屋の引き戸が開いたスパンという音が飛んでくる。
「もう」
気配がベッドに近付き、入鹿以外の体重が掛かる。ギシリと寝台が鳴く。貧弱。
「入鹿さん、朝。」
「うん」
「おはよ」
おはよう。
タオルケットから顔を出すと、ニコリと笑う青年の顔があった。
岡山太一。
入鹿よりちょうど10上の、過去幼馴染だった人。
現在の肩書きは多分、保護者。
「ごはんたべよっか」
「おう」
先に下りてるよと告げて自分に向けられた背をぼんやり眺める。
これを、俺は何年追いかけてきたかなあと入鹿はふと考えた。
いち、に、さん。
(今日、俺は19になるから、おなじだけか)
だって、自分が自分という存在に気づいたその時からもう太一はそばにいたのだ。本当のきょうだいじゃないことを知ったときに驚くくらいには、もうずっと、ずっと一緒だった。
(…おかしいなあ)
今日は毎年来る特別な日だった。
もう5年以上前に入鹿の家族がこの世界からいなくなった日。
引き換えに、太一が保護者になった日。
そして、約束をくれた日。
でも、それは「毎年恒例の」と言っていい程度の日だった筈だ。少なくとも、入鹿にとっては。
(…俺、何かしたかな)
相変わらず頭がはっきりとしない。
『明日が終わったら、別々に暮らそっか』
昨夜、太一が言ったその言葉がどうしても頭から離れない。
「ぼくがいるから」
「ぼくはいなくならないから」
「だいじょうぶ」
もうひとりになんかしないから。
今思えばよくわからないその言葉だけがあの数日のなかで唯一鮮明な、そして温度を持っているもので。
残念ながら、どんな顔して言われたのかとか、細かい状況等は全く覚えていないけれど。
そしてその言葉どおり、以来そいつはずっと俺のそばにいる。
□■□■□ ■
ふつりと意識が浮上し、耳に届いたのは電車の音と鳥の声。ワンテンポ遅れて、今が朝で、自分が目覚めたことを把握する。
ベッドの上、自分の傍らに無造作に転がっている携帯の画面に触れると、設定したアラームが鳴るまであと4分と微妙な時間であることがわかり、ぼすんと枕に突っ伏した。
いつもはアラームが鳴っても気づかず寝ているほどの自分が自然に目覚めるのは本当に珍しい。
土台、昨日はなかなか寝付けなかったのだ。至極、個人的な事情により。
「いるかさーん、おきたー?」
慣れた声と一緒に、とたとたと廊下を歩く音。一度ぎゅっと目を瞑ってから、入鹿はタオルケットに包まったまま叫んだ。
「まーーーだーーーー」
「それ明らかに起きてるよね!」
突っ込みに次いで、部屋の引き戸が開いたスパンという音が飛んでくる。
「もう」
気配がベッドに近付き、入鹿以外の体重が掛かる。ギシリと寝台が鳴く。貧弱。
「入鹿さん、朝。」
「うん」
「おはよ」
おはよう。
タオルケットから顔を出すと、ニコリと笑う青年の顔があった。
岡山太一。
入鹿よりちょうど10上の、過去幼馴染だった人。
現在の肩書きは多分、保護者。
「ごはんたべよっか」
「おう」
先に下りてるよと告げて自分に向けられた背をぼんやり眺める。
これを、俺は何年追いかけてきたかなあと入鹿はふと考えた。
いち、に、さん。
(今日、俺は19になるから、おなじだけか)
だって、自分が自分という存在に気づいたその時からもう太一はそばにいたのだ。本当のきょうだいじゃないことを知ったときに驚くくらいには、もうずっと、ずっと一緒だった。
(…おかしいなあ)
今日は毎年来る特別な日だった。
もう5年以上前に入鹿の家族がこの世界からいなくなった日。
引き換えに、太一が保護者になった日。
そして、約束をくれた日。
でも、それは「毎年恒例の」と言っていい程度の日だった筈だ。少なくとも、入鹿にとっては。
(…俺、何かしたかな)
相変わらず頭がはっきりとしない。
『明日が終わったら、別々に暮らそっか』
昨夜、太一が言ったその言葉がどうしても頭から離れない。
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